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マルタの風に吹かれて

投稿(文、写真) 小島裕子  HP編集 中村一彦
                -– マルタ・ソロ プチ滞在記 —

 数年前、マルタで語学短期留学をした友人から「マルタは風景が美しく穏やかな国、一度訪れてみてね」と言われ、いつか行ってみたいと思いつつそのままになっていました。2024年の夏の終わり頃、書店で「マルタ騎士団」という本に目が留まり、読み終わった時には(マルタに行ってみたい。マルタ騎士団の足跡を辿ってみたい)と感じ、「いざマルタ!」。予定を遣り繰りし、すぐに航空券とホテル3週間分を予約し、1ヶ月後にはマルタの地を踏みました。私の旅はいつも「取り敢えずその場所に身を置く」というもので、今回もあまり予備知識も無いままマルタに向かいました。 

 ーこの本に誘われましたー

〖マルタ共和国〗

マルタ共和国はイタリアの南、地中海に浮かぶ小さな島で主都のあるマルタ島とゴゾ島、コミノ島の主な3つの島から成り立っています。マルタ島の海岸沿いの入り組んだ入り江は絵のような美しい港の景観を創り出しています。

マルタの歴史は古く、シチリア島の人々が渡来した紀元前5000年頃に遡ります。紀元前1000年頃からは地中海沿岸の国々からの攻撃と支配の歴史が繰り返されました。マルタ騎士団が活躍したのは16~17世紀。最後はイギリスの統治下に置かれ、1964年、マルタ共和国としてイギリスから独立しました。マルタの公用語は英語とマルタ語です。

マルタ共和国地図 マルタの位置 

マルタはヨーロッパの人たちが夏のバカンスを過ごしに来るビーチリゾートとして有名で、私が滞在していた10月もほとんどの観光客はヨーロッパの人たちのようでした。

〖滞在先・スリーマ〗

私の滞在先はマルタ島の東に位置するSliema(スリーマ)という街で、借りたキッチン付ホテルは海岸沿いのにぎやかな観光地からちょっと坂を上がった静かな住宅街の一角にあり、買い物や移動にとても便利な場所でした。

スリーマはボートや船で島めぐりをする観光拠点で、毎日ここから沢山の観光船や観光ボートが出ていました。朝夕の港の風景はとても美しく、海岸沿いに長く続く歩道は人々の散歩道。私も夕暮れの美しい風景を眺めながら散歩を楽しみました。

〖首都・バレッタ〗

スリーマの対岸に首都バレッタの街があり、堅牢な石壁で囲まれた美しい城塞都市バレッタの外観を見ることが出来ます。スリーマ、バレッタ間はバスだと約30分、船では10分ほどです。

スリーマから見たバレッタの外観
バレッタ・聖ヨハネ大聖堂
観光客で賑わうバレッタの街
段差が低い階段

バレッタの「マルタ騎士団長の館」を訪れました。一階が主に兵舎、二階が会議室や執務室として使われていたそうですが、現在公開されているのは二階のいくつかの部屋とネプチューンの中庭を囲む廊下と兵器庫です。宮殿の廊下は大理石で出来た床の細工や壁や天井のフレスコ画が素晴らしく、(ここを騎士たちが行き来していたのね)と感慨に耽り、中世ヨーロッパにタイムスリップしたかのような気分になりました。

マルタ騎士団長の館の美しい廊下
マルタ騎士団の兵器展示館)
 

〖古都・イムディーナ〗

 イムディーナはマルタ最古の都市でバレッタが築かれる前のマルタの首都でした。首都の移転と共に人々が去り、その後は「静寂の街」と呼ばれています。街を訪ねてみると正にその通りで、一歩路地に入るとひっそり静まりかえり、中世の街に紛れ込んだかのようでした。貴族が多く住んでいたこの街の外側にはラバトと呼ばれるエリアがあり、お土産屋さんやレストランが軒を並べ、活気あふれる庶民的な雰囲気が楽しめます。日本の城下町のようなものでしょうか。

イムディーナの入り口の門
イムディーナ 静寂の路地

〖マルタでの日々〗

 スケジュールは気の向くままで、ガイドブックや地図を眺めながら「明日はここに行ってみよう」、「このレストランは美味しそう」、「このツアーに参加しようかな」といった具合でした。ホテルのスタッフや街で知り合った人などからお勧めの場所やレストランを教えてもらうこともありました。気に入った場所を再訪出来るのは長期滞在のメリットですね。

 ☆移動手段

空港からアパートまでのタクシーの運転手の運転の荒いこと!カーブや細い道でもビュンビュン飛ばし、まるでカーチェイス状態。最初は驚いたものの、その後バスやタクシーに乗るたびにビュンビュンが続いたので何日かするとすっかり慣れました。日本にはこんなバスやタクシーの運転手はいないだろうなと思いつつも、郷に入りては郷に従え、です。

 マルタには鉄道が存在せず、観光客の主な移動手段はバスとタクシーです。バスの利用にはバスカードがあり、とても割安で乗る都度買う必要がなく便利に使えます。バスの便が悪い場所に行くときは「Bolt」というタクシーの配車アプリをよく利用しました。方向音痴の私には欠かせないアプリです。

まだこんなレトロなバスも現役
お世話になったアプリ配車タクシー「bolt」

☆食事情

 パスティッツイはマルタの伝統スナック。手のひらサイズのパイで、パイ生地の中身はリコッタチーズかヒヨコ豆のペーストが一般的のようです。マルタの人は朝ご飯にこれを食べる人が多いそうです。街のあちらこちらにパスティッツィの専門店がありました。また、ジェラートのお店もそこかしこにあり、イタリアが近いからかピザやパスタのお店も多く見られました。

 マルタのビールは黄色い缶の「チスク」が有名です(瓶もあります)。マルタの気候に合う飲みやすいライトなビールで、ランチのお供に良く飲んでいました。

 観光地ということもありレストランは数多く、ランチやディナータイムはどこのお店もにぎわっていました。私は、なるべく地元の人お勧めのレストランに足を運ぶようにしましたが、どこも大正解!でした。島国ということで海鮮料理をよく注文しました。店頭に魚のショーケースがあり、そこから自分で選んだ魚を自分の好みに調理してくれるレストランもありました。

パスティッツイ
生ガキ&フィッシュスープ

☆マルタでの小さな旅

ワイナリー見学もしたいと思っていたので近所のワイン屋さんのご主人にお勧めのワイナリーを尋ねると「マルタの人たちが愛する家族経営のワイナリーだよ」と”Meridiana Wine Estate”を紹介してくれました。

当日の参加者は15人程。殆どがヨーロッパの人たちで、中には大学でワイン醸造を学んでいるというポルトガルからの学生もいました。

ワイナリーの歴史やブドウ畑の様子、醸造過程などの説明後、お待ちかねのテイスティング。沢山のおつまみ付きで4種類のワインをテイスティングしましたが、白ワインが一番印象に残りました。マルタの気候風土には白ワインが似合うような気がします。

ワイナリーMeridiana Wine Estate
 ワインテイスティング

マルタ島の北に位置するゴゾ島は、マルタ島の北の端からフェリーで30分ほど。距離は近いのですがマルタ島とは異なり自然豊かでのんびりした牧歌的な雰囲気の島です。行きのフェリーで知り合ったマケドニアのご夫婦と二人のスウェーデン人女性たちと意気投合し、ゴゾ島のカフェでビールを飲みながらお喋りをするという楽しい時間もありました。

フェリーでゴゾ島へ

ゴゾ島の入り口 シュレンデイ湾

また、現地で見つけたグルメツアーにも参加。10名ほどの観光客が集まり首都バレッタの地元民お勧めのカフェやレストランを巡り歩きました。青い空の下、青く穏やかな地中海での遊覧船の小さな島巡りも楽しいものでした。

☆近所のひとたち

ホテルの近所に馴染のカフェが出来ました。ランチで初めてそのお店に入った時、カフェのご主人は「日本人がこの店に来たのは初めてだよ」と言い、二度目に行った時は「今日のマキアートは僕の奢り」と。お客さんが少ない時はマルタの話をあれこれ聞かせてくれました。

近所の小さな雑貨屋のおじさん、郵便局のおねえさん、シーフードレストランの優しいご主人やウェイター、ワインショップの物知りご主人等々、いろんな人たちとのお喋りも楽しかったです。マルタの人たちはお喋り好きの人が多いようで、それが幸いしたようです。

旅でいつも感じるのは時間の流れです。最初はゆっくり過ぎ、徐々に速度を増すように感じます。3週間のマルタ滞在も終わってみればあっという間の楽しい日々でした。

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宇宙葬(ロケット打ち上げを見届けに)2024年12月

投稿(文・写真)小島裕子  HP編集 中村一彦

友人から「父は宇宙に興味があり、生前、『宇宙から地球を眺めてみたい』とよく言っていたので遺灰の一部をロケットに載せて打ち上げる宇宙葬をしてあげることにしたの」と聞き、「その時は私も一緒に見届けたいな」と応え、それから約一年。

当初、打ち上げは2024年10月でしたが延期が重なり、「この分だと来年(2025年)になりそうだな」と思っていた矢先の12月10日、宇宙葬の企画会社から「打ち上げが12月20日に決まりました」と連絡が。「えっ、10日後じゃない!」。18日の夜便で発ち25日の朝帰国というスケジュール。急な決定でしたが友人も私も打ち上げを見届けたかったので、友人は会社に休暇願を出し、私はスケジュールを調整しすぐにESTAを申請しました。

 ホテルと航空券の予約は宇宙葬の企画会社が手配し、18日の夕刻に企画会社のスタッフ4名と羽田空港で合流し合計6名でロサンゼルスに飛びました。

 ロサンゼルスまでの飛行は9時間弱。18日の13時40分頃空港着。ここまでは順調でしたが、入国審査の長い列で1時間半待ち、そして企画会社のメンバーのKさんが何故か入国審査でひっかかり別室送りになってしまい、私たち5名は彼女が解放されるまで空港で足止め。別室ではスマホ禁止(ということ)で連絡が取れず、ひたすらKさんが現れるのを待ちました。

アメリカは、特にロサンゼルス空港は入国審査が厳しいらしく、入国審査を待つ間、何人もの人たちが別室送りになる様子を見て驚きました。そして3時間以上が過ぎ、ようやくKさんが姿を見せました。

 ロス空港 Lakersのオブジェ 
空港でジュースとサンドイッチ 計3162円!

空港での時間ロスが影響し、空港から高速バスとタクシーで移動しLompocのホテルに着いたのは午後11時。予定では午後7時には着いていたはずでした。

まぁ、旅にハプニングは付きものですね。

ホテルではドバイで仕事をしている1人の若者とタイで仕事をしている4人の若者が私たちと合流しました。彼らはIT関連、アニメ関連会社の経営者たちで、私の友人同様ロケットに何かを搭載依頼し、今回の打ち上げを見届けに来たということでした。

今回の打ち上げ場所はVandenberg Space Force Base(バンデンバーグ空軍基地)でしたので、私たちは基地から車で15分くらいの街のホテルに滞在しました。そこで2泊の予定が、打ち上げが1日延期となり、3泊することになりました。(ロケット打ち上げにはこのような変更はよくあるそうです)

二日目は、企画会社のスタッフや合流した若者たちと空軍基地のあたりの様子を見に行こうと総勢10名でタクシーに分乗し出かけました。空軍基地の周囲は建物など何もなく、広いブロッコリー畑が私たちを迎えてくれました。確かに空軍基地の周りに建物は建てられませんね。カリフォルニアの空の広さと青さ、そしてさわやかな風を満喫しました。

   ホテルのロビーにロケットのオブジェと
美しいクリスマスツリー

カルフォルニアの青い空
         気持ちよさそう・・・・

     

打ち上げが行われる空軍基地  
基地近くの広大なブロッコリー畑

打ち上げの延期で3日目がフリーになったので、運営会社のKさんがMaveric社(ロケットのエンジン制作会社)のCEOとCOOとのランチを設定してくれ、現地で合流した若者たちも参加。Maveric社のお二人から宇宙事業のことやロケット打ち上げに関することなどあれこれお聞きし、楽しい時間となりました。とてもフレンドリーな方たちで、私たちの幼稚な質問にも分かりやすく答えてくれたことが印象的でした。

Maveric社のCEO、COOと 
 ランチを終えて

ランチの後、友人と私はワイナリーを訪れることに。Lompocの近郊にはたくさんのワイナリーがあるので、ホテルのスタッフお勧めの「Babcock Winery」に、企画会社の男性スタッフ一人を加え3人で出かけました。

ワイナリーではまず4種類のワインをテイスティングし、その後、気に入ったワインを楽しみました。丘の上にある素朴な雰囲気のワイナリーで、さわやかな風を感じながらの素敵な時間でした。

(Lompoc近郊にはワイナリーが沢山)

(Lompoc近郊にはワイナリーが沢山)    (丘の上のBabcock Wineryでテイスティング)

場所からの打ち上げ見学でした。打ち上げ数分前からモニターでロケットの詳細を見ることが出来、その後もリアルタイムでYouTube発信していました。見学場所にはLompocの街の人たちも大勢見学に来ていて、夜空を一瞬昼に変えるようなまばゆい光、そして打ち上げの瞬間「ウォー」「ブラボー」という歓声と拍手に包まれました。夜中で空が曇っていたため宇宙に向かうロケットの形自体は見えませんでしたがロケットのエンジン炎が上昇してゆく様子に興奮しました。「父の遺灰が宇宙に飛んでいく・・」と友人も上昇する炎をジッと見つめていました。炎はどんどん上昇し炎の塊は光の点となり消えていきました。

8分後、上空で分離したロケットの胴体部分が地上に戻ってきます。再利用するためだそうです。炎が徐々に下降してくる様子が見えました。それが着陸した時の音は遠くにいる私たちの耳にも大爆音で、「着陸失敗で爆発した!?」と思ったほどでした。

発射の瞬間 by SpaceX
昼間のような明るさに

            無事上空に。視界から消えるまで眺めていました

人工衛星に搭載された遺灰は一年程地球の周りを周回し、やがて大気圏に突入して燃え尽き流れ星になる・・・、そうです。

今回の打ち上げミッション名は「Bandwagon-2」、ロケットはイーロン・マスク率いるSpace X社のFalcon9。

ロケット打ち上げを初めて眺めながら様々なことを思いました。先ずはこのような経験をさせてくれた友人と亡きお父様に感謝。そしてし、人の弔い方には先祖代々のお墓の中、樹木葬、海洋散骨等様々な形があるけれど、亡くなった人を想い空を見上げ、星に語りかける、逆もまたありで、自分自身も地球に何も痕跡を残さず、ただ星になって大切な人たちを見守る、そんな宇宙葬という形もいいなあと感じました。

その後、タクシーと高速バスを乗り継ぎロサンゼルスに。

その日のランチはSpaceX社に隣接するカフェで、SpaceX社の上層部の方とご一緒しました。その方は日本人で、イーロン・マスクの信頼を得ている直属の部下だと聞いていました。ランチを取りながらSpaceX社について、イーロン・マスクの野望、宇宙産業に関するお話、等々、とても興味深いお話を伺いました。

  Rocket st.
SpaceX社のKさんと)

ちょうどクリスマスシーズンでしたのでクリスマスの雰囲気を楽しもうと、ロサンゼルスの大きなショッピングモール「ザ・グローブ」に行きました。モール全体がひとつの小さな街のようで、街の中心に大きなクリスマスツリーが置かれ店々はクリスマスデコレーションで飾られ、歩くだけでも楽しい時間が過ごせました。モールの中にある有名なメキシコ料理のお店でディナーを楽しみ、長い一日が過ぎてゆきました。

翌日はグリフィス天文台に。アールデコ調の趣ある建物自体も美しく、数々のハリウッド映画のロケ地としても有名です。ここの展望台からはロスの街が一望でき、ハリウッドサインも見ることが出来ます。ロケット打ち上げを見たばかりだったこともあり、宇宙や化学関連の展示をじっくり見学し、更に宇宙に興味が湧き、宇宙をより近くに感じられる場所でした。帰り際に振り返って見た夕暮れの天文台もライトアップされ美しかったです。

ザ・グローヴのメキシコ料理店
グリフィス天文台

ホテルに戻りダイニングで夕食を取った後、ホテルのシャトルバスで空港に。

いつもの私ののんびり旅とは違い、短い期間にあちらこちらを動き回った盛りだくさんの旅でした。(今頃、お父様は宇宙から地球を眺めていらっしゃるんだなぁ)などと思いながら飛行機に乗り込み、帰国の途につきました。

                   ー完ー